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「イノベーション25」閣議決定から今日で2年。この長期戦略指針は、その後どうなったか?

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 先週、このコーナーで触れました「イノベーション25」についてですが、「安倍内閣が退陣した後も、『イノベーション25』は実行されているのですか?」というご質問を多くいただいていますので、現状を書かせていただきます。
 ちなみに今日6月1日は、「イノベーション25」が閣議決定された日から、丁度2年の記念日でもあります。

 「イノベーション25」とは、安倍総理が、2006年9月の安倍内閣発足に、イノベーション担当大臣というポストを新設して策定を命じたものです。
 2025年までを視野に入れ、技術革新や社会システム・制度刷新の方向性について記した日本政府の長期戦略指針です。

 当時の日本には、5年ごとの「科学技術基本計画」は在りましたが、約20年間ものタ―ムの取組みについて政府が定める長期戦略は存在しませんでした。
 
 一方で、中国は、2020年までの長期ビジョンを示し、「創新(イノベーション)型国家」「科学技術強国」を目指していました。米国は、「パルミザーノレポート」や2006
年の大統領一般教書演説における「米国競争力イニシアチブ」でイノベーション鼓舞を打ち出していましたし、EUでも、「競争力イノベーションイニシアティブ」を策定し、研究成果の実用化や中小企業のイノベーション支援プログラムを推進中でした。
 主要国が「イノベーション長期戦略構築」「研究開発投資増大」「海外人材獲得」に取組んでおり、安倍総理も、担当大臣であった私も、世界が「知の大競争時代」に突入したことを実感していました。

 「イノベーション25」策定作業には、8ヶ月もの時間をかけました。
 イノベーション25戦略会議の委員のみならず、約2200名の日本学術会議の会員の皆様のお知恵を借りるとともに、文部科学省・科学技術政策研究所で延べ2500名の専門家の参加を得たデルファイ手法による「科学技術予測調査」も活用しました。
 現在の科学的知見をもって予測できる限りの「技術的裏付け」を行う努力をした上で、総合科学技術会議を活用して「技術革新」と「制度刷新」の両方について、実現の為のロードマップを作成しました。
 ロードマップは、2025年までかけて実行する長期の課題と、第3期科学技術基本計画が終了する2010年までに実行する短期の課題に分けました。

 策定作業が終了した直後の2007年6月1日に、「イノベーション25」は、閣議決定されました。
 私が、担当大臣として「閣議決定」に拘った理由は、国内外の科学者・専門家の知恵を結集して作った長期戦略指針を、単なる未来予測報告書にするのではなく、安倍内閣が終わった後にも、着実に毎年度の予算編成や法制度改正に反映させることを目指したからでした。

 「イノベーション25」のロードマップに示された目標は、現在も、各省庁の技術革新予算や法制度改正の取組みにおいて、着実に実行されています。

 例えば、「2010年までに実施すること」とした短期ロードマップに入れたテーマの中では、「二酸化炭素の地中封じ込め技術(CCS技術)導入・実証」、「スマートグリッド送配電ネットワークの導入・実証」、「光触媒技術による空港でのインフルエンザ対策」、「グリーン家電・エコ自動車・太陽電池普及支援」などが、平成21年度当初予算・補正予算で措置されています。

 「イノベーション25」には、オープン・イノベーション推進の必要性も記しました。
現在、私が居る経済産業省の取組みでは、去る4月22日に成立した法律に基づいて創設される㈱産業革新機構によって、オープン・イノベーションにリスクマネーを調達することが可能になるとともに、企業間や産学官の共同研究を行うための技術研究組合を使いやすくすることも実現できました。

この他、iPS細胞研究など、日本の国際競争力向上に直接つながる大型の研究開発テーマを選定し、重点的に支援する「世界最先端研究支援強化プログラム」も開始されます。総額2700億円、1テーマ当たり90億円の予算です。
 ナノテク・蓄電池・太陽電池等の世界的拠点の整備や日本と米国国立研究所との間の日米研究協力の加速も、実行段階に入りました。

 「カーボン・フットプリント」や、環境省と内閣府で取組んでいる「環境リーダー育成イニシアティブ」も、「イノベーション25」で提案していた政策です。

 また、イノベーションを促す為の規制の見直しや新たな法制度構築として示した項目の
中でも、実行段階に入ったものがあります。

 「イノベーション25」には、「電波の二次取引など新サービス促進の為の規制見直し」という項目を記しましたが、これは、平成20年に総務省が「電波の2次取引制度創設に係る法改正」をしてくれました。

 同じく、「デジタル・コンテンツ流通促進の為の法制度整備」という項目については、平成20年に、内閣官房「知的財産推進戦略2008」に反映され、著作権制度改正が検討されています。

 「住宅の長寿命化を目指した維持管理システムの構築」という項目についても、今年、国土交通省が「超長期住宅ガイドライン」を検討中です。

 「若手研究者向け競争的資金の充実・強化」という項目については、平成19年の内閣府「競争的資金の拡充と制度改革の推進について」に基づき、各省で若手研究者向け研究資金を充実してくれています。

 「海外高度人材の移入に資する在留期間見直し」という項目については、通常国会に、法務省から「新たな在留管理体制のための法律案」が提出されました。

 世界の優秀な頭脳を日本に獲得する為に、在留期間の延長だけではなく、大学等の9月入学や外国人研究者の家族に対する生活支援の必要性も提案していましたが、これらも、平成19年に、文部科学省が「学校教育法施行規則」を改正し、9月入学制度が可能になりましたし、文部科学省では、「留学生・外国人研究者と家族の生活支援」にも取組んでくれています。

 今後、「複数専攻制度の導入」「研究者の事務作業サポート人材配置」「海外の大学・大学院との単位互換」「特別免許状活用による理工系人材の教員登用」などが着実に進行すれば、世界中で熾烈を極める海外人材獲得競争や国内人材力の強化について、一定の環境が整っていくと思います。

 しかし、イノベーションの実現には、まだまだ多くの法制度の検討を行わなければなりません。

 例えば、生活の場や産業の場でロボットを普及していく上では、「製造物責任法」「建築基準法」「労働安全衛生法」の見直しが必要になるかと思います。
 ロボットは、想定外事故のリスクが一般製造物より高い可能性がありますから、ロボットを対象とした製造物区分と責任規定を検討しなければならないでしょう。室内でロボットが稼動する際の使用実態に応じた建築物安全基準や、ロボットを使用した業務に関する事業場安全基準も、検討対象だと思います。

 高度道路交通移動システム普及には、「電波法」「道路交通法」「道路運送車両法」が検討対象となるでしょうし、テレワーク普及には、「労働基準法」「労働者災害補償保険法」「雇用保険法」を改善しなければなりません。
 将来、遠隔在宅医療を実現しようと考えるならば、「医療法」「医師法」「保健師助産師看護師法」などが検討対象となるでしょう。

 私自身がフォローアップできる立場にある限り、長期戦略指針策定に携わった1人としてしっかりと働き、2025年時点での結果に責任を持ちたいと思います。

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