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放送法③:引用で脚光を浴びた「幻の放送法案」の史料

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 去る3月11日の毎日新聞夕刊に、テレビ報道記者の金平茂紀さんが、原稿を書いておられました。


 昭和23年に旧逓信省が作成した『放送法質疑応答録案』(国会答弁用に役所が作成する「想定問答集」)の中から、「憲法には表現の自由を保障しており、また放送番組に政府が干渉すると放送が政府の御用機関となり国民の思想の自由な発展を阻害し戦争中のような恐るべき結果を生ずる。」という答弁部分を引いて、「これが当時の役人の考え方だった」と記しておられました。


 その前週、金平茂紀さんがキャスターを務めておられる報道番組(個人的には大好きな番組で、よく観ています)の中でも、同じ史料の同じ部分が紹介され、「放送法立法時の精神について、高市大臣はどのように考えているのか」というナレーションが入っていました。


 3月17日の毎日新聞朝刊には、BPOの川端委員長も「昭和23年の旧逓信省の想定問答資料は、放送法第4条を『倫理規定』と解釈する根拠となる」という旨の発言をされたと報じられていました。


 金平さんの原稿や番組での紹介によって急に脚光を浴びることとなった昭和23年8月15日の旧逓信省『放送法質疑応答録案』ですが、これは、昭和23年6月に国会に提出された放送法案に関するものであり、この法案は、同年10月に取り下げられています。


 その後、昭和24年12月に新たな放送法案が国会に提出され、こちらの法案は昭和25年に成立しました。

 金平さんや川端委員長が引用された史料は、現行放送法のベースになっている昭和25年成立の放送法に関する国会想定問答集ではありませんが、戦後に長い期間をかけて放送法制定に至った先人の御苦労を知る上では貴重な史料です。


 この昭和23年8月15日の旧逓信省『放送法質疑応答録案』には、確かに金平さんが引用された部分の記述もありますが、次のページをめくりますと、「違反した放送を行った場合」について、「法令違反として第68条により免許の取消又は業務停止の処分を受け」、「協会(現NHK)の場合は役員の解任事由の一になる」いう答弁も記述されています。


 現行の放送法よりも厳しい内容です。


 昭和23年6月に国会に提出された放送法案では、「ニュース記事の放送」については、「厳格に真実を守ること」、「公安を害するものを含まないこと」などが規定されており、これに違反した場合には、「免許の取消」または「業務停止」の処分を受ける事由の1つになることとされていました。


 前記した通り、この放送法案は、同年10月に取り下げられ、その後の検討を経て、新たな放送法案が閣議決定され、昭和24年12月に改めて国会に提出されました。


 新しい放送法案では、昭和23年案の第4条(ニュース放送)及び第68条(免許の取消又は業務の停止)の規定は削除される一方、NHKに適用される番組準則(第44条第3項及び第45第1項)は、引き続き法案に盛り込まれました。


 更に、その後の議員修正により、結局、番組準則は民間放送事業者にも適用されることとなり、放送法は昭和25年に制定されました。


 同じ昭和25年に制定された電波法も、第76条第1項において、「免許人がこの法律、放送法若しくはこの法律に基く命令又はこれらに基く処分に違反したときは、三箇月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ、又は期間を定めて運用許容時間、周波数若しくは空中線電力を制限することができる」と規定しており、現行の電波法と同様の規定となっています。


 このため、昭和25年当時から、「放送について一定の規律を課すこと」は想定されていたと考えられます。


 その上で、引用された『質疑応答録案』でも記載しているように、言論の自由をはじめ、表現の自由は、日本国憲法で保障された基本的人権の1つです。


 現行の放送法第1条の目的規定においても、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」とされており、これを尊重すべきことは当然のことだと考えています。
 

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