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海賊対策新法について②:民主党の非現実的主張

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 先週、日本船舶や日本人乗組員が被害に遭っているソマリア沖の海賊対策について、現行法制下で可能な「海上警備行動」による自衛隊艦船派遣の早急な実施とともに、「海賊対策新法」の早期成立を期す必要性について書きました。

 民主党は、テレビ番組でご一緒した白議員のご発言や直嶋政調会長のご発言によると、「自衛隊派遣には反対。海上保安庁の船舶なら派遣してもいい」というスタンスであるようです。

 海賊行為への対応は第一義的には海上保安庁の任務ですが、結論から言うと、ソマリア沖への海上保安庁船舶派遣は、現実的ではないと思います。

 第1の理由は、ソマリア沖までの距離と対応可能船舶の不足です。

 海上保安庁は東南アジア地域に巡視船を派遣した実績は有りますが、「補給船」を保有せず、巡視船には洋上で補給を受ける機能も有りません。

 ソマリア沖までの航行能力や長期行動能力を考慮すると、物理的に対応できる海上保安庁の船舶は「しきしま」、「みずほ」、「やしま」の3隻のみです。

 「みずほ」と「やしま」は、もともと海難救助に関する条約に基づき、わが国周辺海域の捜索救助の責任を適切に果たすことを目的として整備を行ったもので、両船とも、現在は日本近海で本来任務に就いています。
 この「みずほ」と「やしま」を海賊対策に送ることになると、日本近海での海上救難、海上警備への対応が手薄になってしまい、万が一、日本近海で大きな海難事故や北朝鮮関連等の緊急事態が起こった時に、対処が難しくなります。
 残る「しきしま」を派遣するとしても、1隻だけでは、数多い民間船舶の保護には対応できません。

 「それなら、新たに海上保安庁の船舶を整備すればよいではないか」という反論もあるかと思いますが、「みずほ」や「やしま」級のヘリコプター2機搭載型巡視船の整備には、1隻あたりの建造期間が3~4年、建造費用が350億円という時間とコストがかかりますので、喫緊の課題への対応はできません。

 第2の理由は、ソマリア沖に出没する海賊の武装状況です。

 海賊は、ロケットランチャー等の重火器で武装し、GPS等のハイテク機器を購入して強化されているといいます。
 ロケットランチャー等の重火器については北朝鮮の不審船も同様ですが、遠く離れたソマリアでは対応できる海上保安庁の「勢力」が異なります。前述した様に、何とか1隻だけを派遣したとしても、万が一の事態が発生した折の対応には不安が残ります。

 欧米アジア各国は、海上警察機関ではなく、海軍の軍艦と軍用航空機を派遣して対応しています。
 海上保安庁では、諸外国の海軍軍艦との実際的な連携行動の実績がないことから、秘匿通信等の情報共有についても円滑に進まない可能性があります。

 これまで海上保安庁が参加した「PSI海上阻止訓練」は、外国のコーストガード、警察、税関、軍等の関係機関が参加して大量破壊兵器、その運搬手段及び関連物質がテロリスト等に拡散することを阻止する目的の訓練であって、ソマリア沖海賊対策のように各国の軍によって実施されている活動に対応した実績は有りません。

 民主党議員が、「海賊は、身代金目的で乗務員を誘拐していると聞く。虐待はないとも聞いているし、心身の安全が脅かされるというのは言い過ぎでは?」と発言されたようですが、「人質が大切にされていた」という信頼に足る情報の根拠は有りません。

 実際に人質となり解放された方々からの聴取では、非常に危険な状態だったと報告されています。
 殆どの人が身体の自由を奪われ、食料や水が乏しい中での長期監禁生活を余儀なくされているそうです。中には銃を24時間交代で突き付けられていたという証言もあり、極めて危険な状態だと考えるべきでしょう。

 そもそも海賊が重大な犯罪であることを考えると、人質を大切にしているらしいという推測で自衛隊派遣に反対することは、おかしいと思います。
 人質にされるという事態が発生しないように、民間船舶と乗務員の安全を確保する為に国家が行動しなければならないのですから。

 民主党には、旧社会党系議員も多いことから、「できるだけ自衛隊を使わないでおこう」という自衛隊アレルギーが存在するのかもしれませんが、政権政党を目指されるのであれば、「国民の生命と財産を守る為の国の行動には、『最も実効的な手段』を早急に使うことが重要である」ということも考慮していただきたいと願います。

 政府・与党は、派遣する船舶は自衛隊艦船であるべきだと考えますが、海上保安庁にも、巡視船派遣以外の海賊対策を担っていただく予定です。
自衛隊艦船に海上保安官が同乗して、海賊に対する法執行(犯人逮捕、取調べ、採証、送致等の司法手続)を行っていただく必要があります。

 また、海上保安庁は、平成12年以来、東南アジア各国の海上保安機関の能力向上支援策(専門家派遣・研修実施・訓練実施等)を行い、「アジア海賊対策地域協力協定」を締結して、締約国と緊密な協力を行ってきました。

 これらの取組等の結果、東南アジアでの海賊発生件数は激減し、ピーク時の平成12年に比べると、昨年は約5分の1に減少しています(242件→54件)。特に、マラッカ・シンガポール海峡では、10分の1にまで減少しています(80件→8件)。
この東南アジアにおける経験を活かして、昨年10月から12月には、ソマリア周辺沿岸国(イエメン・オマーン)の海上保安機関の能力向上支援を実施しています。

 現在のソマリア沖では、各国の軍艦や哨戒機がエスコートやパトロールを行うことで、航行船舶や乗務員の安全を守っていますが、中期的には、「周辺国による抜本的な取組」を促していくことが必要だと思います。

 海賊行為は、現地の貧しい漁民にとっては、「ローリスク・ハイリターンの現金収入獲得手段」だと言われます。
周辺国では、海賊の処罰や引渡しに関する国内法も未整備で、海賊が捕まったとしても、厳罰を科す国は無く、すぐ釈放されるとのことです。
法整備支援や産業振興支援など国際社会が行えるソフト面での海賊対策も多々有り、海賊対策新法成立後も、中期的視点で対策を打っていなかければならないと考えています。

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