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WTO閣僚会議で学んだ「閣僚の役割」

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 10月のAPEC閣僚会合に続いて、11月中旬は、WTO非公式閣僚会議出席の為、1泊4日という地獄のスケジュールでシドニ一に出張でした。


 朝からタ方まで衆議院経済産業委員会での答弁をこなした後、夜遅い飛行機で成田を発ち、機内でWTOで発言すべき案件について徹夜の勉強。早朝に現地に若いた後、会場となるホテルにチェックインし、その後は夜10時半まで2国間の閣僚会談など会合が続きました。お風呂に入った後、眠い目をこすりながら、また深夜まで発言内容のチェック。

 翌日も早朝から10時間半に及ぶ熱心な議論がなされました。結局、会場のホテルからは―歩も外に出ることもなく、大急ぎで空港に向かって帰路へ。

 自分がこういう立場になるまでは、国際会議に出掛ける閣僚がこんな悲惨な日程をこなしつつ激論を交わしているとは夢にも思わず、総理や外務大臣ってのは体力勝負の仕事やなあ、と改めて同情してしまいました。


 医薬品アクセス問題や貿易関連知的所有権問題では進展があったものの農産品・非農産品の市場アクセスや投資ルール、アンチ・ダンピング問題では意見が激しく対立。

 それでも閣僚同志が議論することで、APECの時よりも互いの立場への理解が探まっていることを実感しました。


 つまり、 WTOに関しては実質的な交渉はジュネーブで続けられているのですが、折り合いのつかない点を解決していくのは閣僚同志の人間関係なのです。

 各種通商交渉で顔を揃える面子は大抵一緒なので、不思議な連帯感の様なものが出来てきます。まだ2度目の私でさえ、多くの閣僚が10月のAPEC閣僚会合での私の主張を覚えていて下さって、それを前提に話をしてくれます。「APECではよく発言されていたので、尊敬していますよ」 と言って下さったり、「あの時は貴女が中国とやりあっていたので応援演説をしてあげようと思ったのだが、 発言のタイミングを逸して申し訳なかった」 と声をかけて下さったり・・といった具合です。


 ニュージーランドの大臣とは昼食時間に隣合わせになったので話をしたのですが、最初は「マズイ席に座っちゃったな」と思いました。ニュージーランドは、農産物輸出国ですから、米国やオーストラリアと組んで、日本の農産物市場のさらなる開放を求めているからです。案の状、彼は私の顔を見るなり、日本批判を始めました。

 「食事中に何という話をするんや・・」と内心腹を立てながらも、私は説明を始めました。「日本は、ABCD包囲網で日本人の生存に関わる物資を止められて、生きるために戦争をせざるを得なかった歴史を持つのです」「米国は今でも、外交関係がこじれた国に対して食糧禁輸を打ち出そうとします。平気で兵糧攻めをする国に穀物の8割から9割を頼っている日本の不安が解りますか?」「工業品と違って、農産物は国家国民の生存に関わるマターです」「勾配が急で水害が発生しやすい地形の日本では、山林や水田はダム効果を持つインフラとして貴重なものなのです」「京都議定書だって、CO2排出大国の米国や中国は協力してくれません。日本は必死にCO2削減努力をしていますが、山林や田畑が減ることで地球環境に悪い影響が出るのです」。

 最初は険しい顔で聴いていた大臣の表情が柔らかくなっていき、最後は「話を聴いて、日本の特殊な事情は理解した。市場開放を求めるわが国の立場は変えられないけど、米国 の手法には、私も反対だ。食糧禁輸など出来ないようにルール作りに励もう」と言ってくれました。

 すっかり打ち解けた後は「あそこで偉そうに話をしている力ナダの大臣は、ワニ男というニックネームなんだよ。実は以前の会議でこんなことがあって・・」「ついでに、カナダの首相は犬男というニックネームだ。その理由は・・」と耳元で面白いエピソードを教えて下さったり、農業以外の案件で日本への協力を申し出て下さったり、良い関係になったと思います。

 カナダのワニ男大臣とも、ワニの話がきっかけで話が弾み、そんな会話の中で、互いの人間臭い面も知ることになります。

 国際会議や2国間交渉で顔を合わせる回数を重ね、会議場外でのプライベートな会話から人間関係を築き、最後は国益がぶつかる場面に遭遇した時に「アイツがあれだけ頑張っているんだから、少し譲って顔を立ててやろうか」と思わせるだけの信頼と友情を得ることが、国際舞台における政治家の役割なんだ、と学んだ高市でした。

 多くの閣僚達との会話の中で、今回も国会対策上WTO閣僚会議への出席を果たせなかった平沼経済産業大臣が、その堂々とした風格と人柄で各国の閣僚から愛され信頼されていることも解って、とても嬉しく誇らしい思いをしました。

 それにしても日本は閣僚の任期が短い為、せつかく政治家レベルで築いた人問関係を外交・通商交渉の武器として生かし切れないのが残念だなあ・・とも感じました。

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