「闇バイト」対策の強化に関する緊急提言【治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会提言】
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情報化社会の進展やスマートデバイスの普及に伴い、被害者と犯人が直に接しないような「顔が見えない犯罪」が現れ、さらには首謀者が国外から実行犯に指示を出す事件にもみられるように犯罪が国境を越える状況の中、減少傾向にあった刑法犯認知件数もついに令和4年から増加傾向に転じるに至った。また、近時、SNSで実行犯を募集する、いわゆる「闇バイト」を利用した手口の犯罪は特殊詐欺のみならず強盗等にまで拡大している。
こうした脅威に対応していくためには、本来的には、新たな捜査手法の導入をはじめとして、これまでになかった抜本的な対策を講じていく必要がある。
他方で、喫緊の課題として、「闇バイト」については実態把握を進め包括的な対策を講じる必要があるのは当然として、実施可能な対策を直ちに実施しなければならない。
本調査会においては、こうした課題意識と国民の安全・安心を守り抜くという考えの下、関係省庁からヒアリングを行い、議論を重ねてきたところであり、以下のとおり、当面取るべき対策を政府に対して緊急に提言する。
1. 新たな捜査手法の確立
新しい犯罪に対応するには新しい捜査手法の検討が必要であるところ、SNS上で「闇バイト」として募集された実行役によって敢行される一連の強盗等事件のような犯罪について、「闇バイト」の募集に捜査機関が応募して行う仮装身分捜査が実行犯の検挙等に有効であると考えられる。
その際、犯罪実行役の応募に当たって「身分証」等を犯行グループへ送付する必要があるが、仮装の「身分証」等を準備する行為等が形式的に刑罰法規に触れる可能性があるところ、「闇バイト」の問題に緊急に対応する必要があることを踏まえ、早急に現行法の範囲内で実施可能な仮装身分捜査の在り方を検討し、形式的に法令に触れる可能性があるものであっても、刑法上の正当行為と位置付けられ得る捜査活動については、早期に実施をするべきである。
なお、実施に当たっては、個々の捜査員がためらいなく仮装身分捜査を行えるよう、ガイドライン等でその在り方を明確にすべきである。
2. SNS等を利用した犯罪の捜査における隘路への対策
「闇バイト」の首謀者や指示役は、X等のSNSを利用して「高額」「即日即金」「ホワイト案件」等と投稿して実行犯を募集し、応募した者とはシグナル、テレグラム等の匿名性の高い通信アプリを利用してやり取りを行っている。このように、SNSや匿名性の高い通信アプリが犯行グループの通信手段として悪用されているにもかかわらず、本人確認義務がなく、通信履歴(ログ)の保存も十分でない現状がある。
そのため、これらのインターネットサービスを提供している事業者に対して、本人確認の厳格化を強力に要請し、適切なルールを早急に確立するとともに、違法有害情報の削除の義務付けやルールを順守しない事業者の国内での当該サービスの提供の禁止も含め、有効な対策を検討するべきである。
また、外国事業者等が保有する情報の取得に関し、日本の捜査機関が海外に所在するサーバに対して直接差押えを行うことは、主権の問題から困難である。その場合は、刑事共助条約等による国際共助によることとなるが、情報の取得まで相当な時間を要するほか、提供される情報も限定的であることが多い。
このような事業者が保有する捜査に必要な情報を迅速に得るため、日本国内において通信サービスを提供する外国事業者等については、日本法人等窓口を設置させ、照会への回答など必要な情報が迅速にやりとりされる環境を整備するべきである。
そのほか、諸外国の例を参考にしたインターネットサービスの悪用を実効的に排除するための法制度の調査・検討、秘匿性の高いアプリを悪用した通信履歴の解析をするための外国捜査機関等との連携、SNS事業者からの証拠収集を迅速・容易にするための方法の検討を行うべきである。
3. いわゆる「闇バイト」等募集情報への対策
いわゆる「闇バイト」等の募集は職業安定法上違法な行為であるが、SNS上の投稿や職業紹介事業者の掲載する求人情報が「闇バイト」等募集情報に当たるか否かを判断することは難しい。
そのため、SNS上における労働者を募集する投稿等に募集者の氏名・名称・住所・連絡先や業務内容等を表示することを義務付け、これに違反する投稿等が違法であることを明確化するべきである。また、総務省の違法情報ガイドラインにおいて、「闇バイト」等の募集が違法情報であることを明記し、事業者における迅速な削除を促進するべきである。加えて、行政機関が事業者に「闇バイト」等募集情報の削除を求めることができるようにする規定を職業安定法に設けるなど、「闇バイト」等募集情報の一層の削除を促進する仕組みを検討するべきである。
さらに、職業紹介事業者において、「闇バイト」等募集情報であるかの確認が不徹底である場合には、応募者が「闇バイト」であると知らずに応募する可能性があることから、「闇バイト」等募集情報が掲載されないようにするために事業者による掲載前の審査を厳格化するなど求人サイトに掲載するまでに行うべき最低限必要な取組を具体的に周知し、その実施を徹底するべきである。
4. 防犯体制・広報啓発の強化
新しい地方経済・生活環境創生交付金及び地方創生臨時交付金は、他の様々な事業と並んで防犯カメラ等の地域防犯力の強化に係る事業への支援も可能であるが、防犯カメラ等に当該交付金が活用されるかは自治体の意向次第であり、必ずしも十分な整備がなされているわけではないとも考えられる。
そのため、当該交付金の使途として、新しい地方経済・生活環境創生交付金については地域防犯力の強化を推奨すべき事業として明示し、地方創生臨時交付金については地域防犯力の強化を推奨事業メニューとして特別に明示し、これを自治体に周知徹底することにより、確実に防犯カメラの整備が行われるように支援するべきである※。
また、整備に当たっては、防犯カメラの増設が必要な場所を整理した上で、必要な場所に保存期間の十分な防犯カメラが増設されるようにするべきである。
また、「闇バイト」に応募する強盗等の実行犯は若年層が多い状況にあり、これらの者に対する広報啓発の強化が必要であることから、いわゆるアドトラックの活用や著名人によるメッセージ等若年層に対して訴求力のある広報啓発を実施するべきである。
5. サイバー犯罪対策に係る体制の充実・強化
「闇バイト」を利用した犯罪のみならず、サイバー空間を巡る脅威情勢が極めて深刻なことに鑑みれば、サイバー捜査に係る人的・物的基盤の強化や、警察のサイバー捜査能力の向上はもとより、違法有害情報の削除に係る取組を行う体制の強化が必要である。
そのため、警察庁サイバー警察局や同関東管区警察局サイバー特別捜査部、都道府県警察サイバー部門の更なる体制強化、各種装備資機材の充実強化、幹部警察官や技術系職員を含む警察職員に対するサイバー教養の更なる充実強化のほか、実際に削除すべき違法有害情報の収集・対応を行っているインターネットホットラインセンターの体制の更なる増強に取り組むべきである。
以上
※本提言による取組は、沖縄県における防犯カメラ緊急整備事業(沖縄県における犯罪を抑止し、沖縄県民の安全・安心を確保するため、県内の市町村等が防犯カメラを整備する際に、国が補助を行うもの)とは別の趣旨であることに留意する。