日本の国防⑩:「反撃能力」を保有する必要性
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自民党が4月26日に党議決定した『新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言』の中に、「反撃能力を保有」と記したことについて、一部メディアや野党政治家が批判しておられるようです。
自民党の『提言』には、「反撃能力」が必要となっている理由(厳しい状況)についても書いてあります。
- 中国が地上発射型の中距離以下の弾道ミサイルだけでも約1900発保有するなど、わが国周辺には相当数の弾道ミサイルが既に配備されている。
- 最近では極超音速滑空兵器や変則軌道で飛翔するミサイルなど、ミサイル技術は急速なスピードで変化・進化している。
- わが国は米国との緊密な連携の下、相手領域内への打撃についてはこれまで米国に依存してきた。しかし、ミサイル技術の急速な変化・進化により迎撃は困難となってきており、迎撃のみではわが国を防衛しきれない恐れがある。
その上で、下記の提言を記しています。
◎弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力(counterstrike capabilities)を保有し、これらの攻撃を抑止し、対処する。
◎反撃能力の対象範囲は、相手国のミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含むものとする。
◎このため、スタンド・オフ防衛能力や衛星コンステレーション・無人機等による探知・追尾を含むISR能力、さらには宇宙、サイバー、電磁波領域における相手方の一連の指揮統制機能の発揮等を妨げる能力や、デコイをはじめとする欺瞞・欺騙といったノンキネティックな能力等の関連能力を併せて強化する。
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そもそも、「抑止」にも「反撃能力」は不可欠です。「抑止」というのは、「手を出せば痛い目を見るので、手出しするのは止めよう」と相手に思わせることです。
「抑止」が有効に機能する為には、「日本には、攻撃に対し反撃する意図と能力がある」ということが、相手に正しく認識されなければなりません。
そして、国民の皆様に決して誤解していただきたくないのは、「侵略的意図」を持つことと「反撃能力の保有」は別次元の話だということです。
国民の皆様のかけがえのない命と領土を守る為に、日本が急いで保有するべきものは、相手の「侵略的攻撃力」を無力化する「積極防御能力」「反撃能力」です。
既に、国会は「長射程スタンドオフ・ミサイルの取得」を予算承認しています。2020年12月18日の『スタンド・オフ防衛能力の強化に関する閣議決定』もあります。
「反撃」としては、以前に書いた「相手の指揮統制機能の無力化」(宇宙・サイバー・電磁波などの技術活用)に加えて、「策源地攻撃」もKill Chainの破壊に有効でしょう。
「策源地」というのは、「戦闘部隊に必要な物資を供給する後方基地」(格納庫、弾薬庫、燃料貯蔵庫、整備施設、軍需品の補給所など)です。
衛星写真で見ると、現在の日本にとって脅威となっている某国の指揮統制機能や爆撃機は、トンネルや地下に防護されています。しかし、爆撃機や艦艇などの整備施設・修理施設、補給所は、地上に露出しています。
相手の継戦能力を封じることも、日本を防衛する為には必要です。
ミサイル攻撃を受けた場合には、ミサイル攻撃に続く爆撃機の発進や戦闘機による航空優勢の確保を阻止する為に、相手の滑走路、レーダー施設、通信施設、指揮統制システムなどの固定目標を、弾道ミサイルによって瞬時に狙撃する態勢をとることも必要です。
少なくとも、「精密誘導が可能な中距離弾道ミサイル」の配備は不可欠になっていると思います。
元航空自衛隊幹部によりますと、これまでは、「防御」にも「反撃能力」が必要だということが日本の防衛政策から抜け落ちてしまっていた為、航空自衛隊はこの前提で、「領空防衛」「航空優勢の獲得」「着上陸侵攻する敵陸海部隊の阻止」を戦いの基本としてきており、「敵の策源地に関する情報収集」や「反撃目標の特定・分析・優先順位の設定」などは行ってこなかったそうです。
自衛隊は「目的外」の「情報収集」や「訓練」はできないので、自衛隊に適切な訓練を実施させる為にも、「必要な事態になれば、自衛隊のあらゆる手段を使って反撃する」という政府の意思を明確に示す必要があるということでした。
総理が意思を表明した上で、具体的な議論を始めなければならないということを仰っていました。
私たちが直面しているのは、周辺国が驚くべき速さで向上させている軍事力であり、現実に配備されているミサイルや、核の脅威なのです。
そして、日本は決して「第一列島線」から移動することはできないのです。
日本が「反撃能力」を持つことによって、グレーゾーンでの抑止から核エスカレーションの管理までを一体のものとして捉えた「真に統合的な日米同盟の抑止戦略」を練ることができます。
いずれは、日本独特の政治用語であり、軍事戦略上の専門用語ではない「専守防衛(Exclusively Defense Oriented Policy)」を、「積極防衛(Active Defense Policy)」へと進化させる時も来るのだろうと思います。