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日本の国防⑧:顕在化するリスクと『自衛隊法』の課題

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 ロシアのウクライナ侵略の惨状を報道で目にした今でも、日本の安全保障の在り方については、政党によって大きく意見が分かれている状況です。

 

 自民党内には、昨年来、いわゆる『戦略3文書』の見直しについては徹底的にやらなくてはいけないという非常に強い危機意識があり、先月に党議決定した『新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言』は、充実した内容になったと思います。

 

 ロシアがウクライナを侵略する前から日本は危機的な状況だったからこそ、昨年10月の衆議院選挙の公約にも3文書の見直しを明記し、政調会の安全保障調査会と国防部会は懸命に議論を続け、提言を取り纏めたのです。

 

 私自身の強烈な危機感は、「顕在化するリスク」の存在によるものです。「心配性」だと言われたら、それまでですが…。

 

 先ず、中国、ロシア、北朝鮮について考えますと、仮にHGV(滑空型ハイパーソニック兵器:大気圏内を、極超音速で、変則軌道滑空)で攻撃された場合、現在の日本のBMD(弾道ミサイル防衛システム)では迎撃が困難だという心配です。

 

 ミサイル探知については、宇宙の早期警戒衛星、洋上のイージス艦、陸上のレーダーで、米軍と情報共有しています。

 しかし、HGVを探知できたとしても、イージス艦のSM‐3迎撃ミサイル(迎撃高度70㎞以上)では、迎撃は困難でしょう。また、PAC‐3は、ミニマムエナジー軌道のミサイルを大気圏内で迎撃するものですが、ロフテッド軌道やディプレスト軌道には対応できません。

 

 低高度ミサイルを大気圏内で迎撃するGPI(低高度広域防空システム)が必要だと思いますが、未だ技術開発段階です。日米共同で大型投資をして、研究開発をスピードアップするべきだと考えます。

 

 次に、2021年夏に中国が実験に成功したFOBS(衛星軌道を経由した、部分軌道爆撃システム)の脅威も感じます。

 

 従来の大陸間弾道ミサイルは、最短距離の北極圏上空を弾道飛行していましたので、アメリカは、アラスカやカナダに早期警戒レーダー網を構築しました。

 しかし、中国のFOBSは、低高度衛星軌道に乗せて、南極経由で地球を部分周回させた後、目標近くで弾頭を大気圏に再突入させるもので、あらゆる軌道・方位からの攻撃が可能だと聞いています。

 

 日本の自衛官は、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います」と『服務宣誓』を誦して任命されます。

 『自衛隊法』が規定する「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つ」という自衛隊の任務を命懸けで全うするという高い志を持って訓練を積み、働いて下さっています。

 

 しかし、現在の『自衛隊法』と、現状の防衛装備では、日本を守り抜くことは困難だと思います。

 

 『自衛隊法』第84条には「領空侵犯に対する措置」が規定されていますが、領空の外では必要な措置が執れませんから、長射程化するミサイルへの対応は困難でしょう。

 

 領空を侵犯した航空機について「これを着陸させ、又は我が国の領域の上空から退去させるため必要な措置」を講ずることはできますが、領空侵犯する「無人機」について実効的な対応措置は規定されていません。

 

 『自衛隊法』第95条には「武器等の防護のための武器の使用」が規定されていますが、『中国海警法』に基づく日本船舶への侵害行為に対して、これを防護する為の武器使用権限はありません。

 「国民の生命財産防護の為の武器使用」を規定することも必要だと思います。

 

 『自衛隊法』第82条3の「弾道ミサイル等に対する破壊措置」に関しても、極超音速で変則軌道滑空するHGVを前提にして『緊急対処要領』を見直すことが必要です。

 

 「弾道ミサイル等が飛来するおそれがあり、その落下による領域内への被害を防止」することとされていますが、弾道計算により着弾予測地点が我が国領域内と判明してから「防衛大臣の命令」による「破壊措置」が可能だとしても(又は常時の「破壊措置命令続行」であっても)、HGVの「落下地点」の予測計算は困難です。

 

 大気圏内である高度100㎞以下に侵入した時点では「領空侵犯」となるのでしょうが、HGVは最初から大気圏内を滑空する上、速度はマッハ5以上とされます。マッハ5なら概ね1分で100㎞。仮に大気圏外から侵入してきたとしても、領空侵入後1分間では対処困難です。

 

 この他、以前に書いた通り、『電気通信事業法』や『不正アクセス禁止法』や『電波法』など、防衛に有効な作戦を制約してしまいかねない法的課題は多々あります。

 

 『自衛隊法』をはじめとする関係法令の見直しとともに、対空防衛に資する技術開発の推進、日本自身の防衛力の強化、日米同盟の更なる強化が必要です。

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