日本の国防⑦:宇宙分野と電磁波分野
更新日:
サイバー」に加えて、「宇宙」と「電磁波」も、「対空防衛の強化」や「相手の指揮統制機能の無力化」には有効な技術領域です。
衛星には、PNT(衛星から発信される信号を利用して、衛星の位置や姿勢情報を得て、衛星の状態をコントロールする機能)、GPS(全地球測位システム。衛星からの電波で地球上の現在位置を測る装置)、通信やISR(情報・監視・偵察)、気象など、「領域横断作戦」には欠かせない軍事機能があります。
例えば、相手国が1発目のミサイルを日本に向けて撃ったとします。そのミサイルへの対応は、間に合わないかもしれません。でも相手国は、2発目を撃つかもしれません。
こういう時に、相手国が武器システムの精度向上に使っている測位衛星や偵察に使っている画像収集衛星を妨害するという方法があります。
日米で協力すれば、相手国の衛星を妨害することは容易だと思います。
例えば、光学衛星に対するレーザー照射により、画像情報に対する妨害が可能です。
アメリカの宇宙軍は、2020年3月に、「地上配置型衛星通信妨害装置」の運用を発表しました。
また、衛星からの電波をジャミング(電波によって妨害すること)することもできるでしょう。
日本の宇宙技術には最先端のものがありますが、敵性衛星の捕獲など宇宙分野の国防において活用できているとは言いがたく、勿体なく感じます。
平素から、各衛星が発する「電波情報」を持っておくことが重要ですし、どれが「敵性衛星」かを事前に知っておく必要もあります。
ロシアも、中国も、「宇宙」を使って軍事的優位性を確保しようとするでしょう。
先ずは、「偽信号、通信妨害・傍受」が考えられますが、これに対処しなくてはいけません。既に、人工衛星に接近して妨害・攻撃・捕獲する「キラー衛星」を実装する動きが見られます。
更に、最悪の事態を考えなければなりません。「衛星攻撃ミサイル」です。
中国は、衛星破壊実験をやりました。
2007年1月に、中国は、宇宙空間で自国の衛星を弾道ミサイルで破壊しました。2014年、2015年、2018年には、衛星の破壊を伴わない対衛星ミサイルの発射実験を行ったと報道されました。
2007年の衛星破壊実験の結果、中国は約3000のスペースデブリ(宇宙ゴミ)を撒き散らしたと言われます。
宇宙には様々な国の人工衛星や宇宙ステーションがあるわけですから、これは非常に危険です。数センチの宇宙ゴミでも、運用中の人工衛星に衝突すると、衛星の機能を著しく損ないます。
中国とロシアが衛星破壊能力を持っていることについて、私たちはもっと深刻に考えなければいけません。
いざという時に、軍事施設を偵察する画像収集衛星や弾道ミサイルの発射を感知する早期警戒衛星を破壊されたら、日米同盟をもってしても、防衛態勢をとることもできません。
レーダーや光学望遠鏡による観測や解析で宇宙を監視し、状況を認識する「SSA(宇宙状況監視)」の強化が重要です。
多数の小型衛星を分散して打ち上げ、それらが一体となって観測機能を担う「衛星コンステレーション」を整備できれば、地上レーダーでは探知が困難なHGVを宇宙空間から探知・追尾すること、人工衛星に被害が生じた場合の機能維持が可能になります。
「電磁波」領域については、以前にも書きましたが、2019年5月、アメリカ空軍は、高出力マイクロ波を照射して地下司令部や建物内のコンピュータや通信機など電子機器のみを恒久的に破壊できるHPM兵器を搭載した「JASSM‐ER」という射程700㎞から1000㎞の空対地ミサイルの保有を発表しました。
電磁波領域についても、日本は優れた技術を保有しています。既に、日本の防衛予算にも計上されて、準備は始まっています。
先般、自衛隊が中国による南西離島侵攻を想定した「電波妨害訓練」をしようとしたものの、『電波法』を所管する総務省の承認を得られず、実施できなかったと聞きました。
全府省庁が一体となって、「サイバー」「宇宙」「電磁波」といった新領域の防衛についても、法運用の調整や法制度整備をしなければならない時期だと思います。
また、衛星攻撃でなくても、海底ケーブルを切断されれば通信が駄目になります。更に、変電所にサイバー攻撃を仕掛けられてブラックアウトが起きれば、日本は反撃どころか、自衛隊も動けません。「衛星防御」「海底ケーブル防御」「サイバー防御」の強化も重要です。