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岸田総理への申入れ②:「ビジネスと人権」に関するわが国のあり方

更新日:

 2月10日には、佐藤正久・外交部会長、石川昭政・経済産業部会長、鈴木憲和・外交部会わが国の人権外交のあり方検討PT座長、辻清人・同PT事務局長とともに、官邸を訪ね、自民党政調審議会で了承した「ビジネスと人権」に関する提言についても、申し入れを行いました。

 

 米国や欧州が「ビジネスと人権」に関して、「制裁」「輸出管理」「輸入管理」「人権DD」などの取組みを強化しています。

 現実問題として、「輸入管理」については技術的に困難だと感じていますが、せめて「人権DD」と「輸出管理」については、政府が前面に立って方針を打ち出し、企業の判断に資するガイドラインの策定や情報提供を強化しなくては、日本企業が各国のサプライチェーンから除外されるリスクが生じます。

 

 本提言については、岸田総理と中谷元総理補佐官(人権担当)が、自民党と連携して検討を進めることを、約束して下さいました。

 

 提言は、下記の通りです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

≪わが国の人権外交のあり方検討PT第二次提言 ~「ビジネスと人権」に関するわが国のあり方~≫

 

 

1 はじめに

 

 昨年5月、本プロジェクトチームは、第一次提言として、人権外交に関する施策を日本政府に提言した。

 その際の提言内容のうち、政務レベルの司令塔の任命など、体制拡充に進展があった一方、諸外国の人権政策の進展も速く、日本政府による更なる行動が期待される状況である。

 

 岸田内閣も、「新時代リアリズム外交」の第一の柱として、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値や原則を重視し、深刻な人権問題への対処にも、しっかりと取り組む覚悟を表明した。これも踏まえ、自民党外交部会として更なる提言を行うこととした。

 

 今回、具体的な議論を経て提言するのは「ビジネスと人権」に関する事項である。

 

 第一次提言でも短期的に検討・実現すべき事項の一つとして、企業の人権デュー・ディリジェンス(企業が人権への悪影響を特定し、予防し、軽減し、対処方法を説明するために実施すべきプロセス)の支援強化等に言及したが、独において「人権デュー・ディリジェンス法」が成立し、EUレベルでも法制化が見込まれ、さらには、米国においては、新疆ウイグル自治区で一部なりとも生産された製品を全て強制労働によるものと推定し輸入を禁止し、これを避けるためには輸入者が強制労働不関与を証明することを求める厳しい「ウイグル強制労働防止法」が成立し、本年 6 月には施行される見込みであるなど、経済活動における人権尊重の動きは、より一層国際化している。

 

 市民社会・消費者・投資家等から企業に対する目が一段と厳しくなる中、日本国内における対応が遅れることは、日本企業の国際競争力低下に直結する。

 

 また、企業の競争力の問題に留まらず、あらゆる主体が人権を尊重する公正な国際市場の存在は、公正な経済活動の下で成長と分配を目指す「新しい資本主義」の実現、更には「新しい資本主義」の柱の一つである戦略的物資や重要技術の確保を目指す経済安全保障の観点からも重要である。

 

 実際に、国際市場における人権意識の高まりは、市場において人権侵害国や当該国企業との取引を敬遠する動きに繋がってきている。

 

 それゆえ、日本政府や企業が、価値を共有する主体とともに「ビジネスと人権」にかかる事項に取り組むことは、人権侵害国政府の行動を変える圧力の施策として、遠回りに見えるがむしろ近道ともいえる。

 

 

2 具体的提言

 

 上記の問題意識を踏まえ、「ビジネスと人権」の分野に関して、以下の諸点を提言する。

 政府は、昨年12月、中谷総理補佐官の下で「ビジネスと人権」に関する関係府省庁会議を開催することとしたが、この動きを評価するとともに、より具体的な行動を促すものである。

 

 

(1)政府自身による具体的取組の推進

 

〈国連指導原則等に従って行動することの再度の意思表明〉

 

 「ビジネスと人権」に係る国際的な諸規範、具体的には、国際連合「ビジネスと人権に関する指導原則」(「国連指導原則」)及びこれに関連する諸規範を全面的に支持することを国内外に改めて明示的に表明すべきである。

 

 日本企業からは、「ビジネスと人権」に関する日本政府の明確な決意表明と指針を望む声が挙がっており、日本企業が国連指導原則等に従って行動すること(企業による係る姿勢の表明、関連するステークホルダーとのエンゲージメントを含む)を積極的に推奨する姿勢を示していくべきである。

 

〈経済主体としての政府による人権デュー・ディリジェンスへの対応〉

 

 「ビジネスと人権」に関する取組は企業に限るものではなく、政府自身も責任を果たすべき主体である。

 

 国連指導原則でも「人権を保護する国家の義務」が第一の柱とされているが、経済主体の一つである政府自身が率先垂範して人権デュー・ディリジェンスを行う姿勢を示すため、公共調達や政府開発援助等、政府が経済主体となる活動において、事前に強制労働・児童労働等の人権侵害がないことを確認する仕組みを整備し、深刻な人権侵害のないことの確認が調達・援助等の要件、若しくは優遇措置のための要件とすべきである。

 

 

(2)企業の取組を後押しするための施策

 

〈企業向けのより具体的な指針/規範の策定〉

 

 昨年行われた政府による企業調査では、「ビジネスと人権」に関する企業の自主的な取組のためのガイドライン整備などが政府に期待されていることが明確となった。

 

 この観点から、国連指導原則と整合的であり、かつ国際基準を十分に満たし国際的評価に耐えうる企業向けの指針/規範の策定を進めるべきである。

 

 企業が人権デュー・ディリジェンスを実施するための、実務で役に立つガイドライン策定は一案であり、経験やリソースが限られている企業にとっても、具体的に当てはめができる実践的な内容とすることが重要である。

 ガイドラインの深さを担保する観点からは、人権デュー・ディリジェンスの中でも特に重視される強制労働や児童労働に焦点を当てることも一案である。

 

〈企業が人権リスクの特に高い国やセクターを特定できる情報ツールの提供〉

 

 企業が国際市場における人権デュー・ディリジェンスを行うにあたっては、人権リスクが特に高い国やセクターに関する情報収集が不可欠であり、企業が日本語で利用できる情報ツールの拡充が必要である。

 

 すでに国際機関や民間機関が作成し、英語にて公開されているリソースが複数存在していることから、これらを日本語にて活用する予算措置を行うことも含め、具体的な施策を検討すべきである。

 

 

3 おわりに

 

 「ビジネスと人権」に関する企業の取組を後押しするためには、日本政府が人権侵害について、国内外問わず、それを認めない姿勢を常に明確にしつつ、企業も同様な姿勢を取れるよう環境整備を行っていく必要がある。

 

 上記提言のほか、日本企業が多く進出している国において、情報収集を強化すること、人権状況・人権意識の向上のための現地政府への支援を進めること、あるいは、人権尊重の取組を行っている日本企業が現地政府などに不当あるいは予見不能な扱いを受けないよう政策・外交等あらゆる角度から全面的に支援することが必要である。

 

 また、貿易政策に関し、諸外国では、米国における「ウイグル強制労働防止法」など、強制労働や児童労働等の人権侵害に依拠した、またはこれに関連した輸入品目の差し止めや、人権侵害を理由とした輸出制限などの制度を導入している例があることを踏まえて、企業が公平な競争条件の下で積極的に人権侵害の排除に取り組める環境を整備する観点から、日本政府として、各国の措置の予見可能性を高めるべく国際的議論に積極的に参画するとともに、貿易政策の中で輸出管理をはじめとした人権侵害を認めない措置を真剣に検討すべきである。

 

 中谷総理補佐官が就任し、政府として人権政策を横断的に推進できる状況になった今こそ、これらの検討を政府内で具体的にタスキングし、施策を具現化していくべきである。

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